渡邊 健一さん(2010年2月)
渡邊 健一(わたなべ けんいち)さん
昭和51年、横浜市生まれ。平成20年に相模原市に転居。先天性視覚障害で高校1年から全盲になる。10年ほど前から、ボランティア活動に参加。
昨年1月から市内の小・中学校などで、視覚障害についての理解やバリアフリーのまちづくりに向けて講話活動を行っています。
ボランティアを始めたきっかけは何ですか?
大学受験の際、横浜国立大学点字サ-クルの学生と出会い、問題集の点訳や試験勉強の個人指導を受けました。指導いただいた学生たちの期待に十分応えられずにいましたが、「その思いに応えたい。大学へ絶対に行くぞ。」という思いが奮い立ちました。苦しい時にいつも、お世話になった方々との出会いを思い出してがんばってきました。こうした皆さんの支えにいつしか恩返ししたいというのが,ボランティアを始めたきっかけです。
社会に返していく思いが原点ですね。
私は先天性視覚障害で、小学校は、弱視学級(現在の支援学級)のあった普通校に通いました。行きは全盲の両親と幼かった弟に付き添われ、帰りはガイドヘルパーのボランティアに送り迎えをしてもらい通いました。そして、日赤の先生に歩行訓練を受けながら、5年生からは一人で白杖(はくじょう)を持って歩くようになりました。
当時は、サインペンの太字よりもっと大きい2cmくらいの文字がやっと見える眼でしたので、私の眼に合った拡大教科書を、神奈川県ライトセンターの日赤奉仕団の方に作成していただき学びました。その頃から様々な世代の方々と交流があり「いつか自分に何か出来ないか。」と幼いながらに思っていました。
心に残る思い出や出来事がありましたら教えて下さい。
大きな思い出として2つあります。一つはピアノを4歳から10年間習っていたのですが、小学校の5年生の時、卒業式の練習の日に音楽の先生が急遽休んでしまい、担任の先生から「校歌の伴奏をしてほしい。」と依頼され、私が代理でピアノの伴奏をして、歌ってもらったことを覚えています。「渡邊君すごいね。」と、みんなから喜ばれ、役に立てた。という喜びを実感しました。二つ目は、教員になるための介護実習に行った老人ホームで、入所者へのレクリエーションでピアノ演奏を頼まれ、童謡・唱歌・歌謡曲などを即興で弾きました。皆さんが私の伴奏に口ずさんでくれ、翌日、「渡邊さんのピアノのおかげで、認知症や不眠で眠れない利用者さんたちがみんな気持ちよさそうに熟睡していましたよ。」と職員からお聞きし、私でもたくさんの方々の役に立ててよかったなと、自信が持てました。
今一番力を入れられている活動は何ですか?
横浜から相模原に転入して来た際に、市社協の「いるかバンク」にボランティア登録し、市内で自分が出来ることで何か社会や地域に貢献できればと思い福祉教育の講師を始めました。私が子どもたちに質問したりすると思いがけない回答や感想が返って来ます。子どもたちから教えてもらうこともありとても新鮮で心地良く楽しいです。
子どもたちに伝えたいことは何ですか?
これまで各種の奉仕団やヘルパーさん、大学生等様々な世代の方々に出会い、支えられ、教えていただいたこととして、人と人とのふれあいや学び、互いに成長し合えることの大切さを伝えていきたいです。
福祉教育の講話では「こういう人もいるんだなあ。」とか、「障害があっても、同じ人間として共に生きていること。」を伝えたいですね。子どもたちにはバリアフリーを広めるために、学んだことを考え、行動する市民になってくれたら嬉しいです。
今後のバリアフリーの広がりについてはどうですか?
市社協で作成中のバリアフリーDVD(※)のインタビューでも述べましたが、黄色い点字ブロックはとても大事な情報ツールです。近年、このブロックが増えたおかげで、外出できる機会が格段に増えました。
ただ、バリアフリーシステムは点字ブロックだけでなく、「青」を知らせる音響信号機や、音声ナビつきエレベーターなども大切なんです。その存在をみんなで共有しあい、一緒に学び育てていく営みが、今こそ必要だと思っています。
街中で視覚障害の方に出会ったら、突然腕をつかんだりせずに、まず「お手伝いしましょうか?」とか、「途中までご一緒しましょうか?」などの声をかけていただきたいとお伝えしています。「声かけ・知り合い・語り合い」が、バリアフリーへの第一歩です。
今後の抱負をお聞かせ下さい。
現在行っている活動は引き続き行っていきますが、この4月から県内の高校で教員として高校生に福祉を伝えて行きます。生きることの大切さ、人は様々な人に支えられて育っていることなどを学生たちに伝えて行きたいです。
また、市民の皆様が、問題に気づき、解決に向けて考え行動できるようなきっかけづくりをしていけたらと考えています。
※バリアフリーDVD「みんないいひとのまちさがみはら」は「この街に生きる ともに生きる」をテーマに、日常の何気ない場面を通して、障害のある方の目線に立った地域社会の在り様や、ともに手を携えて創り出す「共生社会」の大切さを伝える啓発教材として製作されています。